税務調査というと、多くの方は帳簿の山や決算書の数字を思い浮かべます。

ところが現場では、意外なものが勝負を分けることがあります。

それは一枚のレシートです。

ある日のこと。

税務調査官が交際費の内容を確認していました。

「こちらの飲食代8万8千円ですが、どなたとの会食でしょうか。」

社長は自信満々です。

「大丈夫ですよ。クレジットカードで支払っていますから。」

そう言って取り出したのは、カード会社の利用明細でした。

確かにそこには、

○月○日 ○○料亭 88,000円

と記載されています。

社長としては万全のつもりです。

ところが調査官は穏やかに言います。

「誰と会食されたのか分かる資料はありますか。」

社長は少し考え込みます。

「いやあ、それが何だったかな。」

「取引先ですか。」

「たぶん。」

「何の目的でしょう。」

「たしか接待だったと思います。」

だんだん会話が心細くなってきます。

そこで登場するのが、保管していたレシートや領収書です。

裏面に、

『○○建設 △△社長との打合せ』『新規工事受注に向けた会食』

とメモが残されている。

そうすると状況は一変します。

誰と、何のために、いくら使ったのか。

説明がつながります。

税務調査官も確認ができます。

調査というのは敵味方の戦いではありません。

事実を確認する作業です。

その事実を証明してくれるのがレシートや領収書なのです。

一方で最近は、

「カード明細があるから大丈夫」

と思われている方も少なくありません。

確かに利用明細は便利です。

日付も金額も残っています。

しかしカード会社の利用明細は、何を買ったのかまでは分かりませんし、店舗側が発行した証憑でもありません。

そのため利用明細だけでは十分な証拠にならない場面があります。

国税庁も、カード会社が発行する利用明細は原則として仕入税額控除のための請求書等には該当しないと示しています。

現場で本当に会社を守るのは、支払った事実ではなく、その内容を説明できる資料です。

交際費は特にそうです。

取引先との会食なのか。

社員同士の懇親会なのか。

家族との食事なのか。

同じ飲食代でも扱いが変わることがあります。

だから私はお客様に申し上げています。

「レシートは紙切れではありません。」

それは税務調査の時に社長の味方になってくれる証人です。

そしてその証人は、捨ててしまうと二度と呼び戻せません。

キャッシュレスの時代だからこそ、最後に会社を守るのはアナログな一枚の紙なのかもしれません。

レジでもらったレシートを財布に入れる。

そのほんの数秒の手間が、数年後の税務調査で社長を助けてくれることがあります。