当事務所の担当者が訪問先の会社で、ある経費について
「まず『材料仕入』で計上し、その後『仕掛品』に振り替えてください」と説明したそうです。
会計や原価計算に慣れた人なら、ごく自然な指示です。
ところが一か月後、再び訪問して帳簿を確認すると、思っていた処理とは違っていました。
担当したスタッフの方は、会計ソフトでいったん勘定科目の「材料仕入」を選択したものの、そのまま登録せずに「仕掛品」に変更し、
仕掛品/未払金
で入力していたのです。
本人からすれば、言われたとおり「材料仕入」を選び、その後「仕掛品」にしたわけです。
ただし、担当者が意図したのは仕訳を二段階で処理すること。
一方、相手は画面上で勘定科目を選び直すことだと理解していたのです。
ある意味では、指示どおり。
ある意味では、まったく違う。
この絶妙なすれ違いに気づいた瞬間、担当者も相手方も大笑いだったそうです。
ところが、この話には大切な教訓があります。
専門家は、つい「当然こう理解してくれるだろう」と考えてしまいます。しかし、相手は私たちと同じ知識や経験を持っているわけではありません。
「材料仕入で計上してから仕掛品へ振り替えてください」
ではなく、
「まず仕訳を入力してください。その後、月末に別の仕訳で仕掛品へ振り替えます」
と説明していたら、結果は違っていたかもしれません。
税務でも会計でも、間違いの多くは知識不足よりも伝達不足から生まれます。
だからこそ、相手が理解した内容を確認することが大切です。
今回の出来事は笑い話で済みましたが、私たち専門家にとっては大変勉強になる出来事でした。
そして何より、
「言った」と「伝わった」は違う。
そんな当たり前のことを、改めて教えてくれた一件だったように思います。


